公認会計士による日経ニュース解説(2024年7月5日_公取委、損保4社に行政処分へ カルテル認定)

日経ニュース解説

日経は難しい?

「若者の活字離れ」と言われることがあります。私はもう30代なので若者の括りからは外れそうな勢いですが、漫画と共に育ってきた我々にとって、文字だけを読むのってちょっと敷居が高いですよね。

ではなぜ活字を読むのは難しいのか?それは、文字を読むことそのもの以上に、書いてある内容に対する前提知識が不足していることが原因です。極端な話ですが、いくら平易な内容であってもアラビア語で書いてある文章は読めないですよね。それはアラビア語に対する知識が不足していることが原因です。また、自分が興味のある内容であれば、スラスラ読めたりしますよね?好きな子のSNSの投稿とか、多少長くても頭にすっと入ってくるはずです。

以上より、日経を読もうと息巻いたのに、ちょっと読んだら

くま
うおー、わけわからん

となってしまうのは、「活字が苦手だから」ではありません。単純に書いてある記事の前提知識が足りていないだけです。

かく言う私も、ぶっちゃけ日経読んでて理解できないことの方が多いです。そこで、日経の記事に書かれている内容の前提知識をぶたくん、くまくんと一緒に整理し、スラスラと日経を読めるようになっていきましょー!

今日の解説記事

公取委、損保4社に行政処分へ カルテル認定

公取委、損保4社に行政処分へ カルテル認定 価格調整問題 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

記事の要約

      • 公正取引委員会は、カルテルの疑いで損保4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)に行政処分を出す方針を固めた
      • カルテルの疑いがある案件は、東急と仙台国際空港に対する企業向け保険

      それではこの記事について、基礎からしっかり学んでいきましょう!

      公正取引委員会ってなーに?

      「公正取引委員会」を一言で言うと

      公正取引委員会は,独占禁止法を運用するために設置された機関。(中略)他から指揮監督を受けることなく独立して職務を行うことに特色があります。

      公正取引委員会の紹介 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

      一言で言うと、「公取委は独禁法の番人」と言えそうです。それでは公取委が運用する独占禁止法ってどんな法律なのでしょうか?

      独占禁止法とは?

      独占禁止法の正式名称は,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。この独占禁止法の目的は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。市場メカニズムが正しく機能していれば,事業者は,自らの創意工夫によって,より安くて優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとしますし,消費者は,ニーズに合った商品を選択することができ,事業者間の競争によって,消費者の利益が確保されることになります。

      独占禁止法の概要 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

      「消費者の利益を確保」がポイントです。確かに事業者は、利益を追い求めて様々な企業努力をする必要があります。売れる商品を作る、知ってもらうために広告を打つ、無駄なコストを削減するなどなど。しかしあくまでお客様第一なんです、お客様は神様なんです。事業者が利益獲得のためにズルをして消費者にしわ寄せがくるなんてそんなことは許されません。神の怒りに触れてしまします。

      そして今日の記事にも出てきている「カルテル」は、この独占禁止法で制限されている行為の一つです。あまり聞き馴染みのない言葉ですが、一体全体何なんでしょうか?

      カルテルとは?

      不当な取引制限は,独占禁止法第3条で禁止されている行為です。不当な取引制限に該当する行為には,「カルテル」と「入札談合」があります。

      • 「カルテル」は,事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為です。
      • 「入札談合」は,国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し,事前に,受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為です。
      独占禁止法の規制内容 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

      カルテルの事例について、具体的に考えていきましょう。例えば、AIの革新的な技術により、AIが自動でその日のベストな髪形を造形してくれる「AIカツラ」が販売されたとします。

      ぶた
      僕もはやりのセンターパートにしたいなあ、よし、最近テレビでみたAIカツラを買いに行こう

      かつらメーカーA
      (なあなあライバル企業さん、まだ俺たちしか持ってない技術なんだから、競争して安くせず、価格を合わせてなるべく高く売りつけようぜ^^)

      かつらメーカーB
      (おお、たまにはいいこと言うじゃん。是非そうしよう。儲けたお金でキャバクラ行こうや^^)

      ぶた
      やっぱり最新のモノは高いなあ、、予算オーバーだけど仕方ない。これで今月はもう牛肉買えないから、豚肉で節約だ!

      という形で、事業者の間でカルテルが行われるとぶたさんが豚肉しか食べられなくなるという非常に悲しいことになります。それだけは何としても避けたい。

      上述の独禁法の目的にも書いてある通り、この様なカルテルが行われると「公正かつ自由な競争」が阻害され、結果として消費者が不利益を被ることになるため、禁止されているのです。

      ここまでで、基礎知識は十分理解できたと思います。それではここから具体的な記事の内容について解説していきます。

      生保4社は一体何をしたのか?

      「企業向け保険」とは

      今回行政処分が下された対象は、生保4社による「企業向け保険」に係るカルテルです。では「企業向け保険」(法人保険)というのは一体どのようなものでしょうか。

      法人保険とは、契約者・保険料負担者を法人とした生命保険の総称です。

      保険金や給付金の受取人も法人になるケースが一般的で、法人(企業)を取り巻くリスクに備えるための保障を確保します。

      法人保険とは?法人保険に加入するメリット・デメリット|ほけんの窓口【公式】 (hokennomadoguchi.com)

      私たち人間、法律用語で言うと「自然人」にもリスクはありますが、「法人」には自然人にはない様々なリスクがあります。例えば

      中小企業を取り巻く6大リスク

      • 企業財産のリスク:火災をはじめとする様々な偶然な事故によって被る直接損害に係るリスク
      • 経営者・役員のリスク:会社役員として行った行為や解雇・ハラスメント等に起因して経営者や役員が損害賠償請求を受けた場合に生じる損害賠償金や争訟費用等を負担するリスク
      • 従業員のリスク:従業員の労働災害(業務上の事故などによるケガ・病気・障害・死亡)について企業が補償金や損害賠償金などを負担するリスク
      • 事業中断・利益減少のリスク:火災をはじめとする様々な偶然な事故が原因で休業せざるを得なくなったり、取引先の倒産等により貸倒れが発生したりして企業の利益が減少するリスク
      • 賠償責任リスク:事業を遂行する中で、顧客や取引先などの第三者に対して対人・対物事故(身体の障害・財物の損壊)や経済的損失を生じさせ、損害賠償請求を受けた場合に生じる損害賠償金や争訟費用等を負担するリスク
      • 社用車のリスク:法人や個人事業主が所有・使用する自動車による事故に伴うさまざまな損害を負担するリスク
      中小企業に必要な保険 | 日本損害保険協会 (sonpo.or.jp)

      このように法人には多くのリスクがあります。何か一つのトラブルで経営が立ち行かなくなることを避けるため、企業向け保険に加入することとなります。

      損保4社は具体的に何をした?

      今回行政処分の対象の一つとなった東急への企業向け保険のカルテルについて、

      4社は2022年12月初旬、私鉄大手・東急グループ向けの火災保険など2保険の契約更新時に保険料を引き上げることに合意。見積もり合わせの際、それまでの3年間で約20億円だった保険料について、東急側へ各社が提示する金額を30億円程度で横並びにした

      東京海上日動火災保険・損害保険ジャパンなど損保大手4社、東急の保険料を10億円引き上げでカルテルか : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

      こうしてみると、実に生々しい実態ですね。確かに物価高とはいえ、いきなり10億円アップはやばいですね。10億円を稼ぐのにどれだけ企業が苦労しているのか、それを考えてほしいと思います。しかしこちらは最終的には

      類似した金額に疑問を抱いた東急側から保険料の再提示を求められた。最終的に従来より低い金額で契約を結んだことから実害は生じなかった

      東京海上日動火災保険・損害保険ジャパンなど損保大手4社、東急の保険料を10億円引き上げでカルテルか : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

      とのことで、東急側の「お金を守る力」の高さが伺えます。まさに

      出典:HUNTER×HUNTER(冨樫義博)

      いくら相手が殿様商売であっても、正しい金銭感覚を身に付け、相場から考えて明らかにおかしい場合は言い値で契約しない、ということは日常生活でも非常に大切なことだと思います。

      なぜ東急が狙われたのか?

      今回の損保4社のカルテル認定について、その発端となったのは東急への企業向け保険とされていますが、実は

      金融庁が24年6月に発表した4社の報告に基づく追加調査では、600の取引先との契約で不適切な行為があった

      公取委、損保なれ合いに厳格姿勢 残る6件の調査急ぐ – 日本経済新聞 (nikkei.com)

      とされており、氷山の一角であることが解ります。というのも、企業向け保険のシェアは4社で9割を超えるため、企業向け保険の業界では文字通り殿様商売という状態になっていると推測されます。今後も損保業界における公正な競争を確保するべく、更に調査を進めていき膿を出し切って、法整備や業界のあり方など、抜本的な見直しが必要と考えられます。

      まとめ

      今回の解説のまとめは下記の通りです。

      • 公取委は独禁法の番人
      • 独禁法は消費者保護のため、事業者同士で価格等を取り決める行為(カルテル)を禁止している
      • 損保4社は東急に対して企業向け保険料を従来契約よりも10億円吊り上げようとしたが、バレた。オレでなきゃ見逃しちゃうね
      • 損保4社は企業向け保険で9割超のシェアをもつ。不適切な行為は他にもたくさんあった。

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