公認会計士による日経ニュース解説(2024年6月24日_水素と環境保護)

日経ニュース解説

日経は難しい?

「若者の活字離れ」と言われることがあります。私はもう30代なので若者の括りからは外れそうな勢いですが、漫画と共に育ってきた我々にとって、文字だけを読むのってちょっと敷居が高いですよね。

ではなぜ活字を読むのは難しいのか?それは、文字を読むことそのもの以上に、書いてある内容に対する前提知識が不足していることが原因です。極端な話ですが、いくら平易な内容であってもアラビア語で書いてある文章は読めないですよね。それはアラビア語に対する知識が不足していることが原因です。また、自分が興味のある内容であれば、スラスラ読めたりしますよね?好きな子のSNSの投稿とか、多少長くても頭にすっと入ってくるはずです。

以上より、日経を読もうと息巻いたのに、ちょっと読んだら

くま
うおー、わけわからん

となってしまうのは、「活字が苦手だから」ではありません。単純に書いてある記事の前提知識が足りていないだけです。

かく言う私も、ぶっちゃけ日経読んでて理解できないことの方が多いです。そこで、日経の記事に書かれている内容の前提知識をぶたくん、くまくんと一緒に整理し、スラスラと日経を読めるようになっていきましょー!

今日の解説記事

東電、工場燃料にグリーン水素供給 サントリーなど導入

【この記事のポイント】
・東電の水素ビジネス参入で日本の脱炭素に弾み
・顧客となる企業の工場に水素製造装備を設置
・サントリーは山梨、スズキは海外で導入を計画

東京電力、工場燃料にグリーン水素供給 サントリーやスズキ導入 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

なぜ水素なのか?

くま
水素っておいしいのかくま?

ぶた
水素は無味無臭の気体なのでおいしくはないぶた

くま
おいしくないなら、なんでわざわざ水素なんて使うんだくま?化石燃料の方が調達しやすいし楽だろくま

ぶた
それは、水素を使うと二酸化炭素が出ないからだぶた!

昨今の経済界では、2015年に採択されたパリ協定に端を発し、環境保護の取り組みが加速しています。その中でも最も注目度が高いのは、”GHG”(Green House Gas:温室効果ガス)排出量であり、特にGHGの大部分を占める二酸化炭素の排出を抑えることです。

パリ協定

世界で環境保護について話し合われる会合の中で、”COP”(Conference of Parties:締約国会議)があります。COPは毎年開催されておりますが、特に2015年のCOP21では「パリ協定」が採択されました。

「パリ協定」は2015年のCOP21で採択されたもので、史上初めて、途上国をふくむすべての参加国にGHG排出削減の努力を求めています。前身である「京都議定書」は先進国のみに削減義務を課していましたが、「京都議定書」が採択された1997年にくらべ途上国は経済的な発展をとげ排出量も増しているため、すべての国を対象とすることになったのです。

あらためて知りたい、「COP(コップ)」とは?いったい何を話しあっているの?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

水素はエネルギーになるのか

ここで理系っぽい話をしますが、水素(H2)や炭素(C)は、酸素と結びつく(このような化学反応を「燃焼反応」といいます)ことによって化合物となります。化学反応式で表すと

  • 水素:2H2+O2=2H20
  • 炭素:C+O2=CO2

※日本の発電量の31%を占める石炭火力発電の原料となる「石炭」の化学式は”C”

といった形です。燃焼反応では、エネルギーが放出されます。放出されるエネルギーを水素と炭素を比較すると、水素は286kJ/mol、炭素は394kJ/molです。「水素」と聞くと

くま
水素って「水」って入ってるから、水みたいなものなんじゃないのかくま?

というイメージがあるかもしれませんが、実は水素は

その制御を誤ると爆発火災事故にいたる危険性を有しており,その取り扱いには十分な注意が必要である。

Hydrogen energy 22(2): 9-17 (1997) (jst.go.jp)

炭素よりは放出エネルギーが小さいものの、水素をエネルギー源として利用する最大のメリットは、「二酸化炭素を排出しないこと」です。上記の化学反応式を見れば分かる通り、石炭はCO2を排出する一方、水素の燃焼はH20すなわち水しか生成されないのです。これこそが、水素をエネルギーとして利用する理由です。

なぜ現代の企業はわざわざコストのかかるエネルギー源を利用するのか?

くま
水素を使うと二酸化炭素が出なくて環境に良いことは分かったくま。でもそれって余計なコストがかかるくま。利益を追求するのが企業なのに、利益を減らしてまで環境保護することに意味はあるのかくま?

石炭や石油といった化石燃料は、掘れば出てきます。しかし水素は気体ということもあり、自然界に存在する水素を集めてエネルギー源にすることは現実的ではありません。そのため、工業的に生産する必要があり、当然生産するのにコストが掛かります。

生産方法により分類される3つの水素

「工業的に生産」といっても、方法はいくつかあります。工業的に生産された水素は、燃料や製造方法によって下記の3つに分類されます。

  • グレー水素:化石燃料をベースとしてつくられた水素
  • ブルー水素:化石燃料をベースとしてつくるが、技術により製造工程のCO2排出をおさえた水素
  • グリーン水素:再生可能エネルギー(再エネ)などを使って、製造工程においてもCO2を排出せずにつくられた水素

(参考)次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

再生可能エネルギーとは

くま
新しい言葉が出てきたなくま。再生可能エネルギーってなんだくま?

ぶた
法律上の定義はこうなっているぶた

「太陽光、風力その他非化石エネルギー源のうち、エネルギー源として永続的に利用することができると認められるものとして政令で定めるもの」と定義されており、政令において、太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマスが定められています。

総論|再エネとは|なっとく!再生可能エネルギー (meti.go.jp)
くま
んー…わかったようなわからんような

逆に考えてみましょう。日本で発電の中心となる化石エネルギー源(石油、石炭など)は、利用できる量が限られていますよね?具体的には

資源を掘り出す技術が進歩しないままで考えると、今の資源を使い切ってしまうまでには、天然ガス、石油は約50年、石炭、ウランは130年以上と考えられています。

東京ガス : おどろき!なるほど!ガスワールド / 現在を見る / 天然ガスのひみつ / 天然ガスはいつまであるの (tokyo-gas.co.jp)

また、サステナビリティ(持続可能性)の観点から考えても、地球温暖化の原因となるGHGを排出する化石燃料をいつまでも使うことは出来ません。一方で、太陽は将来もあり続けるでしょうし、風も吹くでしょう。さらに、直接的には炭素を燃やしませんので基本的にはGHG排出もありません。そういった意味で、「エネルギー源として永続的に利用できる」というわけです。

企業が再エネを利用するメリット

近年の経済界では、「ESG投資」というものが注目されています。

ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉です。投資家が企業の株式などに投資するとき、これまでは投資先の価値を測る材料として、主にキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報が使われてきました。それに加え、非財務情報であるESGの要素を考慮する投資が「ESG投資」です。

ESG投資|年金積立金管理運用独立行政法人 (gpif.go.jp)

従来の投資活動と言えば、投資家(主に株主)に対してどれだけの富を与えるか、ということに主眼が置かれていました。そのため、損益計算書の当期純利益を重視した投資が行われていました。もちろん利益が今でも重要な指標であることに変わりはありません。しかし、SDGsの採択に端を発し、サステナビリティが重要視される昨今、投資家が投資先企業を選ぶ基準は利益だけではなく、社会貢献や環境保護も含まれるようになってきたのです。そこで、投資家から選ばれる企業になるために、コストが増えて利益を圧迫しても、より環境に良いエネルギーを使用することが必要なのです。

まとめ

以上、グリーン水素で環境を守ろうって感じの記事の背景にある知識について解説しました。環境保護は待ったなしで進んでいます、日本の有価証券報告書でも、昨年からサステナビリティに関する情報が開示義務化されました。しかし、環境保護は人任せではなく、私たち地球に生きる一人ひとりが意識的に行動する必要があります。あなたの一歩は小さく見えても、それが全人類で歩けばとてつもない効果を生み出します。是非今日からタバコの火は水素で点けましょう!

くま
って出来るかくま!水素で火なんて点けたら爆発するっていっただろくま

ぶた
その前に環境のためにタバコを止めましょう。

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